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第1回 志・未来塾 取材後記

講師:喜多川泰
   作家/聡明舎代表

テーマ:「志が拓く 未来」

講師プロフィール

1970年生まれ、愛媛県出身、東京学芸大卒。98年に横浜で、笑顔と優しさ、挑戦する勇気を育てる学習塾「聡明舎」を創立。人間的成長を重視した、まったく新しい塾として地域で話題となる。2005年から作家としても活動を開始し、『賢者の書』にてデビュー。2作目となる『君と会えたから…』は9万部を超えるベストセラーとなった。その後も、『手紙屋』『手紙屋 蛍雪篇』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「福」に憑かれた男』(総合法令出版)、『心晴日和』(幻冬舎)など次々に作品を発表、『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』(サンマーク出版)は12万部を突破し、2013年9月には映画化され全国公開となり、2014年9月から台湾でも劇場公開された。その後も『母さんのコロッケ』(大和書房)、『スタートライン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)と続き、最新作の『One World』にて全13作品となる。現在は多数の作品が台湾、韓国、中国でも翻訳出版され、その活躍は国内にとどまらない。
執筆活動だけではなく全国各地での講演や、大人が学ぶ「親学塾(しんがくじゅく)」を全国で開催し、新潟市でも開催(平成26年11月~平成27年3月)。現在も横浜市と大和市にある聡明舎で中高生の指導にあたっている。

講演要旨・取材後記

志・未来塾も第三期を迎えました。回を重ねるごとに、いい雰囲気になっています。この塾では、志や未来について語ることになりますが、もう一つ大切なキーワードがあります。それが、「塾」というものです。NHKのドラマ「花燃ゆ」を見たことがありますか?山口県の萩市にあった松下村塾が舞台のドラマですが、吉田松陰は実際には一年と一カ月程度しか教えていないのだそうです。この塾の何が素晴らしいかというと、決して先生ではありません。塾生がその後、社会で大いに活躍したからです。
さて、志・未来塾はどうか。これから、この演台にいろんな講師が登場します。皆さんは、わずか一年の間に、凄い人たちの話をまとめて聞ける機会を持ったことになります。僕は学習塾を経営していますが、その塾の素晴らしさは卒業生の活躍で決まります。皆さん、一流の人になってください。では、どうすればそうなれるか。それは、望むことです。一流になりたいと望んで行動すれば、自ずとそのための道が拓けます。
突然ですが、皆さんは志を持っていますか?僕は持っています。志を持っている人生は幸せなのですが、現実にはそういう人は少ない。皆さんが志を持つと、少数派(マイノリティ)になることができます。つまり人と一緒じゃなくなることができます。人と一緒じゃないということは、一流への第一歩です。成功した人たちを見ても、人と同じ平凡な人なんて、いないのです。
先日、ある中学校で「立志式」というイベントに参加する機会がありました。これは昔の元服に相当するもので、数え年で15歳(満14歳)を迎えた際の儀式に由来します。その式の前に、参加者の作文を約80名分読みました。3割から4割の人が、なりたい職業を書いていました。残りの人のうち、半分は「自分には明確な夢はないけど、関心がある分野を持っている」と書いていました。80人のなかでたった一人、「自分には決まった夢はありません。だけど、出会った人を笑顔にしたい。」と書いた女の子がいました。僕は、この一人の生徒こそが志を持っている人だと思います。志とは何になりたいかではなく、「自分の人生を、世のため人のためにどう使うか」だと思います。
これから皆さんには志を持って生きてほしい、自分の人生を社会に役立てるという人になってほしいのです。少なくとも、そういう志を持とうと思って生きてほしいのです。

一流たれ

どんな職業であっても、自分のいる世界から世の中を変えることができます。そのために、自分を一流にするのです。そのためには、繰り返しますが一流になりたいと思うことです。そして、一流とは何かを自問自答し続けて、行動することです。
この志・未来塾の塾生である以上、まずは話を聞くことについて一流になりましょう。私の周りの一流の人たちは、みんな人の話を聞くのが上手いし、うまく話を引き出します。漢字でいうと、《聞く》ではなく《聴く》ということになります。耳だけでなく目で、心で、聴くのです。
例えば、知り合ったばかりの異性が話すことは一生懸命聴くでしょう?ところが、慣れてくると何かをしながら耳だけで聞くようになる。そうすると、「聴いてる!?」と怒られます。本当に心から聴いているかどうかは、話す側にはすぐに分かってしまうのです。
皆さんはこの塾で、たくさんの人と出会います。全てを目と心で聴けば、充分に一流に近づくことができます。相手に目を向けて心を向けることで、相手の心もこちらを向き、人生が拓けていくのです。
例え話ですが、僕は最近、取材を受ける機会が増えました。ある時、2週続けて別々の方から取材という機会がありました。ひとりは、ちょっと遅刻気味に入ってきて、私の本を出しながら、「それで、この本はどういう内容なんですか?」と質問してきました。取材するのに、しかも一カ月ほど前から決まっている取材なのに何を言ってるんだろうと思いました(笑)。翌週の取材は、私が待ち合わせ場所に行くと既に相手が待っていました。さらに僕の本の至るところに付箋が貼ってあり、「面白い本でした!お聴きしたいことが山ほどあります。」と言いました。どちらが、「聴いている」と言えるか、分かりますよね?
これから、たくさんの講師がここに立ちます。中には書籍を出している方もいます。そんな時はぜひ、事前に読んでから当日を迎えて欲しい。たとえ同じ話が書いてあっても、損をした気持ちにはなりません。例えて言うなら、八代亜紀の「舟唄」が好きでコンサートに行っても、聞いたことがあるから損したなんて、思わないでしょ?(あれ?先生達しか分からない?ちょっと古いですか?笑)

働く

我々は働くということが給料を稼ぐこと、自分の人生をお金に換えることだと無意識に思ってしまいがちです。なぜかというと、仕事をすると入り口がここだからです。でも、働くというのは、お金だけじゃなくて人に喜んでもらうことを報酬と考えるべきだと僕は思います。自分が一日生きることで幸せになる人は、今だったら家族や友人がいるでしょう。それを増やしていくのです。
先日、新幹線に乗っていて網ポケットに入れていたゴミを、トイレに立つ時に隣の人の分も「一緒に捨てますよ」と言ったら、その人はとても恐縮していました。これが何か仕事に繋がったかというと、ノーです。お金を貰えたかというとノーです。でも、こんなことからでいいのです。そんなに難しい事ではないでしょう?お金で考えるから有限なのであって、人に喜んでもらえることを考えたら、無限の世界が待っているのです。そうすると不思議なことに、何らかの形で返ってきます。直接かもしれないし、間接的にかもしれない。お金かもしれないし、笑顔かもしれないし、感動かもしれない。素晴らしいことでしょう?

人生の背骨

今、ここにいる皆さんの多くは人生の背骨を持っていません。背骨って何でしょう?それがなければ人が立ち上がれないものです。皆さんは、親の一言で何かを踏みとどまったりした経験はありませんか?例えばこの一言が、人生の背骨の一部を構成します。
外国では、多くの場合が宗教によってこれが成されます。一方、日本は宗教に対して自由である代わりに、人生に影響するような強さもなくなっています。では、道徳教育はどうかというと、学校教育の現場において、機能しにくくなっているようです。そうすると、人生の背骨を作れるのは「歴史」ということになります。
あるデータによれば、自分の国はいい国だという日本人は四割程度だそうです。僕は、とてもいい国だと思っています。それは、この国を良くしようと命をかけた人がたくさんいたのです。僕たちは戦争をせずに済む時代に生まれましたが、誰に感謝していいかわかり難いのかもしれません。だからこそ、自分が受けた恩恵を次の世代に返せばいいと思うのです。このような時代でも、自分の中に動かぬ何かを持つべきだと思います。
残念ですが、志は自生しません。人から貰うしかないのです。皆さんの身体も親から貰って、いろんな生命を貰って生きていますよね?それと同じです。
では、志を貰うというのはどういうことか。しっかりとした志を持って生きている人に出会ったとき、自分もこんな生き方がしてみたいと心が震える。これが、「志を貰った瞬間」であり、「共鳴」とも言うことができます。この塾に参加するということは、こんな出会いを求めるつもりでいてほしいです。

人と出会う

志をもらえるような一流の方との出会いの他にも、大切な出会いがあります。それは、今、隣や前後に座っている人との出会いです。僕自身も、同じ志を持って生きていける仲間(同志)を探しに来ています。
例えば、東京で好きなアーティストのイベントや個展が東京であったら、行ってみてほしいのです。出会いを自分から求める行動によって、同じ方向性の志を貰うことが可能なのです。こうした新しい出会いによって、自分が知らない自分自身を気づかせて貰えることがあります。自分も知らない、あるいは他人が知らない自分自身が開花すれば、思ってもいなかった可能性が開花するかもしれません。だから、今まで知り合ってなかった人と出会いたいのです。

本と出会う

ところが、魂を揺すぶられるような人と出会うのは案外難しいものです。また歴史の話になりますが、昔の人で志の高かった人が多く紹介されています。彼らに出会えば、きっと何かが得られる気がしませんか?その出会いを実現するのが「本を読む」という行動です。この一年、ぜひ本を読んでください。どんな本を読めばいいか迷ったら、人に紹介してもらうといいです。より多くの人に紹介して貰えば、世界がそれだけ広がります。読書は、素晴らしい世界にみなさんを導きますし、時々「この本は、まさに今の自分のために書かれたんだ!」という感覚を覚えることがあります。これは、テレビなどの娯楽で味わうことのできないもので、こう感じるのには理由があるのですが、それは第三期最終回をとなる来年の一月にお話しすることにします。

志が人生を幸せに導く

「人生で起こる全てのことは、必然であり、必要であり、ベストである。」これは、コンサルティング会社で有名な船井総研の創業者、船井幸雄氏の言葉です。
もし志がなければ、発想は「楽をして儲ける」ことに傾き、世の中で「賢い」とされる最短距離を求める効率の良い方法を目指してしまい、効率が悪いことは意味がないこととされます。ところが、この考え方は生きるうえでのあらゆる行動を無意味なものにしてしまうのです。今、自分のしていることに意味があるかを考え始めると、集中できず、他が気になり、結果として何も実りません。
志を持っていれば、目の前の全てのことに意味を見出すことができ、それによって自分を磨こうとさえ思うことができる。志・未来塾もそうです。この塾への参加を通じて、自分を磨くことができる、磨きたいと思って参加することで、自分も志を貰うことのできる場となり得るのです。全てが必然で、必要で、あなたにとってベストなのです。
一期、二期でも伝えたことですが、この塾は日本一の塾になり得ると思っています。松下村塾で吉田松陰が教えた教え子が世の中で活躍したように、皆さんが世の中に出て活躍すれば、あの志・未来塾って何だ?と世の中が注目します。日本中を驚かすような塾にみなさんでしていきましょう。頑張って下さい。今日は、ありがとうございました。

編集後記

少し肌寒い夜だったが、春への期待と同時に三期生を迎えることができた。講師の喜多川先生が伝えた、志を持つための新たな出会いについての極意。緊張気味の一方でフレッシュな面持ちの学生たちにはどういう響き方をしただろうか。

中島みゆきが、ドラマ「家なき子2」のテーマソング「旅人のうた」でこう書いている。
 なにも持たないのは さすらう者ばかり
 どこへ帰るのかも わからない者ばかり
 愛よ伝われ ひとりさすらう旅人にも
 愛よ伝われ ここへ帰れと
 あの日々は消えても まだ夢は消えない
 君よ歌ってくれ 僕に歌ってくれ
 忘れない 忘れないものもここにあるよと

志を持たない生き方は、楽に思ってしまいがちだが、魂のありか(原点)を持たない、さすらう・さまよう状態ではないか。

学生諸君、志・未来塾へようこそ!
せっかく僕たちは出会ったのだから、これを機会に魂がさまようような生き方を改めて、志を持てる生き方を目指そうではないか。この塾を、志を持つ生き方のプラットホームや道標のような場として利用してほしい。過ぎ去った日々を土台として、たくさんの人と出会って夢への道を進んでほしい。クラスや学校のリーダーたるあなたの幸せは、みんなの幸せなのだから。

講演中の様子