NSGカレッジリーグ
第4回 志・未来塾 取材後記

期日:平成27年7月7日(火)

講師:書店「読書のすすめ」代表
   NPO 法人読書普及協会顧問
   清水 克衛 先生

テーマ:「5%の人 ―時代を変えていく、とっておきの人間力―」

講師プロフィール

東京生まれ。
大学在学中、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読み、突如として商人を志す。
大学卒業後、大手コンビニエンスストアの店長を10年間つとめた後、「本をすすめる本屋をやろう」と一大決心し、周りの猛反対を押し切り、1995年に書店「読書のすすめ」を東京都江戸川区・篠崎にて開業。立地の悪さを顔晴るバネにし、汗と智恵を出しきって商いを続けた結果、全国からお客さまが押し寄せる繁盛書店となる。「読書のすすめ」の売れ筋本から、全国でのベストセラー本が生まれる現象が続出、出版流通業界内で熱い注目を浴び続けている。
2003年にはNPO法人「読書普及協会」を設立。本との出会い、人との出会い、出来事との出会いを提供しながら「良質な御縁から生まれる成幸の法則」についての講演活動を続けている。

講演要旨・取材後記

講演の冒頭30分は動画視聴

概要:フジテレビ系「エチカの鏡」にて紹介された書店「読書のすすめ」の紹介
東京都江戸川区にある書店「読書のすすめ」。一見普通の小さな書店だが、全国から客が訪れる。店主である清水克衛氏は、客との対話で寄せられる仕事、恋愛などの様々な悩みに向き合いながら、その人に最も合っていると思う本を勧める。「ちょっとだけ人生の舵をいい方向にきるというのが、本の役割だと思うーー」と清水店長はインタビューに答える。
この本は、いわゆる新刊を置かない。その代わりに5年前、10年前の本でも置いてあることが多く、これについて清水店長は「できるだけ多くの、できるだけいい本の中から、お客さんに出会わせてあげたい。」と答える。
本が大好きだから本屋を始めたというのが原点であり、本を紹介してお客さんに喜んでもらえるのが何より嬉しい。より良い本を紹介できるようにするために、1日10冊前後の本を読んでいるという。

イントロダクション(動画を受けて)

 こんばんは。東京にある書店「読書のすすめ」の清水といいます。今日はよろしくお願いします。いろいろなところで講演しますが、会場の雰囲気が硬いとやりづらいので、楽に聞いてくださいね。
 今見てもらった動画は、「エチカの鏡」というテレビ番組で紹介された時のものです。テレビの影響というのは大きくて、放映の次の日からものすごい数のお客さんが来店されました。店舗は40坪程の小さなものですが、そこに入れないくらいで、悩み相談所みたいになってしまいましたが、中には電話で相談した結果で本を勧めると「ありがとう、じゃぁその本をAmazonで買うわ」と言われた方もいました。(笑)

本屋を経営するにあたって言われたこと

 さて、私はサラリーマンを10年程やった後に本屋を経営することになりました。書店というのは、本を仕入れるのに問屋さんと契約をするのですが、開店する際に、「場所が悪すぎる、江戸川で本屋は儲からない」と言われて、ムッとした記憶があります。その時に、「じゃあ普通の本屋ではやらないことをやろう」と思って、本をお客さんに勧めるようになったのです。最初は、とても怪しい目で見られました。宗教の勧誘かとも言われました。でも、勧めていくうちにそれに感動された方がまた来店してくれたり、友達に紹介してくれたりするようになりました。全員が受け入れてくれるサービスではないですが、受け入れてくれた方が深いつながりのお客さんになったということだと思っています。

私自身を変えた一冊の本

 私は、学生時代に「太陽にほえろ」という刑事ドラマに夢中になり、将来は刑事になりたいと思っていました。だから、そのために必要な武道ということでサークルというかクラブ活動でも柔道を選びました。そんな学生時代にたまたま入った本屋で、手に取った司馬遼太郎の「竜馬がゆく」に大きく心が惹かれました。その中で、とても印象に残っている台詞があります。
 「世の人は我を何とも言わば言え 我が成す事は我のみぞ知る」
この言葉が、儲からないと言われた本屋で、本を勧めるというサービスをずっとやってきた私を支えています。私自身、一冊の本で人生が変わったのです。この充実した感動を、多くの人に味わってもらいたくて今の仕事をしています。

心の成長

 皆さんには、尊敬する人はいますか?ある日の中学校での講演で同じ質問をした時、見事に全員が手を挙げてくれました。ただ、誰を尊敬しているかを聞いて回ると、お父さん、お母さん、先生・・・と全員が身近な人を挙げたのです。私は、ほほえましい半面、これでは不足だと思っています。もっと広範囲に影響を与えた人を尊敬して欲しいと思います。言い方を変えると、目標とする人は高いレベルで設定するべきだと思うのです。中学校のこの状況は、歴史上の人物に触れていないから(伝記を読んでいないから)こうなるのだと思います。
 シュタイナー教育論によれば、人間が生まれてから最初の8年間は自我の欲求に正直な時期であると分類されます。このときの心の状態を、今日は仮に「心の”下”」と呼びます。例えば、あるときパン屋さんで買い物をしていたら、私の小さい子供がふといなくなっていることに気づきました。探してみると葡萄パンのところにいて、葡萄パンの「葡萄だけ」をむしり取って食べていました(笑)。もちろん平謝りの私でしたが、これが子供の「欲求に正直」、心の”下”という状態です。皆さんが、自分の欲するものだけを求めるというのは、心の”下”だと言えますし、もっと成長しなければならない状態です。
 心の状態が1ステップ成長すると、心の”中”です。自分から何かをやりはじめますが、外部からの刺激に弱い状態です。何かがうまくいかないと、自分以外のせいにしようとします。

「5%」側の人になってほしい

 今の日本は、心の「下」と「中」で95%を占めると思います。そしてさらに成長した心の「上」は5%程度しかいませんが、この状態の人は自己責任でものごとに取り組むことができる人たちです。よく使われる言葉で表現すれば、95%の心の「下」と「中」は”大衆”ということができるでしょう。そして、数々の歴史書を見ると、大衆はいつも間違った方向に進みます。
 今日、ここで志・未来塾に出席している皆さんは、一生懸命勉強して95%の大衆ではなくなろうとしている人達だと思います。ぜひ頑張って5%のところを目指して、これからの日本を良い方向に導いて欲しいです。

脳の挙動と、能動・受動

 ちょっと試してみたいことがあります。「後出しジャンケンゲーム」といいますが、私が先にジャンケンで出しますから、その直後に[1]私に勝つものを出す、[2]私とあいこのものを出す、[3]私に負けるのを出すという3つをやってみましょう。・・・どうですか?[1]と[2]はできても、[3]でわざと負けるというのは難しくないですか?これは、人間の脳がより良い状態になろうと導くためだそうです。
 ところで、みなさんはどれくらいテレビをみますか?テレビというのは放映されているものを受け入れる状態になってしまう「受動的」なメディアで、これに対して本というのは、文章から自分で想像して読み進める「能動的」メディアだと思います。ただし、ただ読むことだけに満足せずに謙虚な態度を忘れず、常に周囲から学ぶ謙虚な姿勢を保って欲しいと思います。
 5%の人は、「自分の機嫌は自分でとる」ものです。嫌なことがあった時、それを自分の反省や楽しいことに「能動的に」変換できるものです。私なんて近所にある「不味い」と評判のお店に行っては、”楽しみ”に変える訓練までしています(笑)。
 これに対して95%の大衆は、自分に起きることを受動的に捉えようとするため、思い通りにならないとイライラしますし、人のせいにして人を批判したり攻撃したりします。
 サラリーマン経験者として自信を持って言いますが、これから就職したら嫌なことばっかりです(笑)。それを受動的にしか捉えられず、避けたり批判したり拒絶したりしていると、人の役に立てず会社の役に立てず、脱落します。極論ではありますが、嫌な存在があるからこそ世の中のバランスが保たれるのです。能動的にそう考えるのです。悪役がいるからヒーローが活躍できるのと同じだと思ってください(笑)。
 そういう能動的な捉え方ができる人になってもらうために、今日はみなさんに、人間が成長する時の「がぎぐげご」を紹介します。ガ=我慢、ギ=義憤、グ=愚鈍、ゲ=元気、ゴ=悟性です。嫌なことで不機嫌にならず、自分ではなく公のために、おおらかな心で、元気に、周囲を理解する。そういう自分自身の成長のために本を読んで欲しいです。

本屋にみる「進歩」と求められる「進化」

 今までの本屋は、誰にでもわかるものを売るために努力してきました。「5分でわかる」「猿でも分かる」というフレーズを聞いたことがあると思います。しかし、本当は時代が変わって不変なものを提供する「たて糸」の読書を提供することが、必要だったんだと思います。簡単な本を読んでも、成長は浅いのです。自分が背伸びして、ちょっとわからないところを人に聞いたり調べたりしながら読むくらいのレベルが、人を成長させる読書だと私は思っています。
 進歩と進化の違いで説明すると、多く売るために分かりやすさだけを追求したのは、サービスとしては良くなったものの成長のラインからは外れる「進歩」だったと思います。ところが本当に必要だったのは、多少わかりづらくても人間の成長に資する本を提供するという、成長の本来の姿である「進化」ではないかと思っています。今、時代が大きく変わろうとしています。温暖化、エネルギー問題、自然災害・・・だからこそ人間社会がこれに対応できるように進化が求められるのです。こういう時代に求められるのは、本来の成長ラインからズレたものを原点(本来の成長ライン)に戻して成長することです。私は、自分の本屋でそういうサービスを提供していきたいと考えています。

思考の二元論と一元論

 人はものごとを考えるとき、二元論で考えてしまいがちです。給料が高い、安い。料理が美味い、不味い。仕事がきつい、楽だーー。しかし、二元論で生まれてくるのは、比較による劣等感やこれによる対立です。私はよく「話し方が上手くなりたい」という相談を受けます。これは、二元論で考えて自分が下手だという考えだからです。私に言わせれば「そのままでいいじゃないですか、あなたはあなただから。」ということです。私の友人でトークが苦手な営業マンがいますが、とても誠実で、会社で営業成績はトップです。自分じゃなくても、周囲の状態をそのまま受け入れることで幸せな感覚を持つことができます。この感覚は一元論と呼びます。ものごとの本質に注目し、それを他と比較したりせず、また批判せずにそのまま受け入れるということです。
 極端な例ですが、なかなか警察に捕まらなかった泥棒は企業側で雇えば防犯のスペシャリストとして活用できるでしょう(笑)?

4度目の転換期

 最近、世界から注目を集める日本人ですが、我々日本人という民族は、他の文明由来の民族に比べて、考えることが少なくて済んだという説があります。その国土の特性上、水を確保する心配がいらず、植物や魚を食することができた。その民族が、歴史上これまで三度だけ大きく考える必要に迫られたことがあったそうです。1)中国という国(民族)の存在を知った、2)明治維新、3)第二次世界大戦の敗戦です。ちなみに、明治維新の頃は人口が約3千万人の時代ですが、福沢諭吉の「学問のすゝめ」は3百万部とも5百万部ともいわれています。昔の人は、とても勉強して難局を乗り切ったのです。さて、皆さん。ITの発達、経済構造の変化、自然災害・・・今が四度目だと思いませんか?皆さんは、そういう時代に若者として生きているのです。だから、本を読んだ方がいいんです。できれば、「読書のすすめ」で(笑)。
 今日は、ありがとうございました。

編集後記

 坂本龍馬に感銘を受けたと話す人は多い。しかし、その言葉の一つに支えられて自分の道を信じ、ここまで突き進めている人となると、そう多くはいないのではないか。清水氏が歩んできた「周りとはちょっと違う本屋」という道は、それを求めていた多くのお客さんから支持を受けた。そこからは、「本に出会うことで、見えていなかった道が見えるようになる、人生の素晴らしさ」のようなものが感じられる。自分の言葉で直接ではなく、適した本を勧めることで、筆者との出会い、登場人物との出会いがそれを実現させているのだ。

 人は、自らが行動することでいろいろな人に出会う。その結果として数十億人の中から出会った、愛する人、信頼する人、仲のいい人・・・
さて、本はどうだろうか。本を通して、私たちが通常では出会うことのできない歴史上の人物に出会い、世界に接することができる。その出会いのために、私たちはどれだけ行動できているだろうか。
 学生諸君、その出会いのために本屋に行ってみないか。本を読んでみないか。本について話してみないか。

 中島みゆきの楽曲「一期一会」は、テレビ番組「世界ウルルン滞在記」で起用された。その曲にはこう書かれている。
 見たこともない空の色 見たこともない海の色
 見たこともない野を超えて 見たこともない人に会う
 急いで道をゆく人もあり
 泣き泣き 道をゆく人も
 忘れないよ遠く離れても 短い日々も浅い縁(えにし)も
 忘れないで私のことより あなたの笑顔を忘れないで

 人との出会いは一期一会と言われるが、書店で手に取った一冊の本が、君と著者を、そして君と登場人物をつなぎ、そこに描かれている世界、ストーリー、史実を通して、今まで見えなかった希望の道が見えるとしたら、なんと素晴らしいことだろうか。しかも、この出会いは数百円から、高くても数千円で実現できるのだ!
 もしかしたら、その本の著者や登場人物は、君との出会いを一期一会と捉えているかもしれない。そして、きっとこう言っている「忘れないで、今の想いを」。

 撤収作業も終えた帰り途。「昔読んだあの本、どこにあったかな・・・」と考えさせられた、夏の割には涼しい、読書の秋を思わせる夏の夜であった。

講演中の様子