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第1回 志・未来塾 取材後記

期日:平成28年3月22日(火)

講師:喜多川泰
   作家/聡明舎代表

テーマ:「志が拓く 未来」

講師プロフィール

1970 年生まれ、愛媛県出身。東京学芸大学卒業。 1998 年に横浜で、笑顔と優しさ、挑戦する勇気を育てる学習塾「聡明舎」を創立。人間的成長を重視した、まったく新しい塾として地域で話題となる。 2005 年から作家としても活動を開始し、『賢者の書』にてデビュー。2作目となる『君と会えたから…』は9万部を超えるベストセラーとなった。その後も、『手紙屋』『手紙屋 蛍雪篇』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「福」に憑かれた男』(総合法令出版)、『心晴日和』(幻冬舎)など次々に作品を発表、『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』(サンマーク出版)は12万部を突破し、 2013 年 9 月には映画化され全国公開となり、 2014 年9 月から台湾でも劇場公開された。その後も『母さんのコロッケ』(大和書房)、『スタートライン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)と続き、最新作の『株式会社タイムカプセル社~十年前からやってきた使者~』にて全 15 作品となる。
現在は多数の作品が台湾、韓国、中国でも翻訳出版され、その活躍は国内にとどまらない。執筆活動だけではなく全国各地での講演や、大人が学ぶ「親学塾(しんがくじゅく)」も全国で開催。( 2014 年度は新潟でも開催)現在も横浜市と大和市にある聡明舎で中高生の指導にあたっている。

講演要旨・取材後記


イントロダクション

今日から、志・未来塾の第四期がスタートします。僕は毎回、トップとラストという重要なところを任されていますので、頑張ってお話しします。皆さんは、あまり緊張せずにリラックスしながら、一生懸命聴いてください。

素敵な勘違い

皆さんは、人生を幸せかどうか決めるのは何だと思いますか?才能?心の強さ?毎回多様な回答をもらいますが、僕は「人生を決めるのは、(素敵な)勘違い」だと思っています。
僕の塾の生徒さんで、アイドルグループ嵐の大ファンがいます。暇さえあればお母さんも一緒に、全国のコンサートに出かけています。その子が「あの時、絶対に自分を見て笑ってくれた、手を振ってくれた」と嬉しそうに話すのです。意外に、こういう勘違いが(勘違いだと思うのですが・・・笑)、今日一日を幸せかどうか決めてしまうのです。そして、幸せになれば、事実がどうだったかはあまり気にしなくていいということにもなります。
これからの一年間、ここに立つ講師はすごい人ばかりです。一生かけても、こんなすごい人達と一年間で出会えるチャンスは、そう多くありません。この出会いを「自分のために話してくれる」と考えれば、これ以上の幸せ、これ以上大切な事実は存在しないのです。

志とは

以前、ある中学校で行われた「立志式」という行事に参加したことがあります。昔の元服に相当する、大人になるための儀式です。全ての生徒さんが、この立志式を迎えるにあたって将来の夢について作文を書いていました。
ほとんどの作文は職業を夢としてあげていましたが、ある女の子の作文だけが違っていました。
「自分には夢がない。だけど、誰かを笑顔にできる仕事がしたい。」
僕は、この子だけが「志」を立てたのだなと思いました。夢というのは仕事に就くことではなく、むしろ夢を叶えるための手段でしょう。大切なのは、その仕事という手段によって、人にどう喜んでもらえるかだと思います。具体的な手段は試行錯誤しながらでも、実現を目指す夢を真っ直ぐに見つめられている心の状態を「志」と呼ぶのだと、僕は思います。

微小差でしか大差はつかない

人は、一人ひとりがすごいことをできる可能性を持っていて、しかも人生は一度きり。せっかく一度しかない人生ですから、ここに集まった皆さんには、すごいことを実現してほしいです。
人と人との努力や技術・技能の差というのは、短期間では大差になりません。1年でもまだまだ。5年、いや10年と経ったときに大きな差になって現れるのです。小さな努力を最初は笑われるかもしれません。しかし、10年経ってできた大差が社会に評価されたとき、笑っていた周囲があなたにすり寄ってくるのです。

一流の人

このなかから、就職する人も起業する人もいると思います。起業はとてもいいことです。ところで、起業するという発想って、普通じゃないと思いませんか?(僕も塾を経営するために起業した、普通じゃない人ですが。笑)
例えば就職した人にとっては、給料日はお金が入ってくる嬉しい日ですが、起業した人(経営者)にとっては、収入の大半が出て行く日です。でも悲しい日ではありません。これを嫌という経営者の会社は、5年と持ちません。これだけ多くの人の生活に貢献していると思えるようにならなければなりません。
これから先の就職活動で企業に面接を受けに行ったときに、経営者に会う機会があれば、パンフレットではなく経営者の顔や姿を見てください。どのように生きてきたか、どのような思いでこの会社を育ててきたかが、顔や姿ににじみ出ています。観点を変えれば、皆さんは顔や姿に現れる生き方に、普段から気をつけてください。そして、恥ずかしくない生き方で一流の顔や姿で歩けるように、一流の人と出会って学んでほしいと思います。
僕が、僕の周りの一流の人から学んだことを一つ紹介します。その方が、「感動」とは本来「感即動」と表現するものだと言われています。即ち、感じて即、行動することだということです。人は、考える時間が長いほど自分の損得を考えてしまう生き物です。
例えば電車の椅子を譲ってほしい人を見て、すぐに動けばいいのに考えてしまうと、「拒絶されたらどうしよう」などと考えてしまう。感じてすぐに動く人が、一流になれるのです。
一流から学んでほしいと言いましたが、一流からもらえるのは「種」です。育てたいと思うものは、持ち帰って大切に育てるのです。その結果として実になれば、その種を皆さんが次に渡すのです。
どんな種類のことでも、一流を育てるには10年くらいかかると言われますが、皆さんが既に10年以上継続してきたことがありますよね?それは、壇上の人の話を聴くということです。もう皆さんは「一流の聴き手」であるはずの経験を積んでいるのです。ある説によれば、話すことより聴くことのほうが積極的なアプローチなのだそうです。「聴」という字は、耳+目+心という造りになっています。皆さんだって、話しやすいのはアドバイスをたくさんくれる人ではなく、よく聴いてくれる人ではないですか?
志・未来塾に参加するにあたり、どうか「一流の聴き手」になってください。

働く

皆さんは、いずれ働くことになります。ところで、働くこととは一体何でしょうか。多くの人が、時間をお金に替えることだと思うようですが、これだと得られる成果は有限になってしまいます。ところが、時間を誰かの喜びに替えることだと考えれば、得られるものは無限大になります。例えば、人気アーティストが高い報酬を貰えるのはなぜでしょう。一人ひとりに大きな喜びを与えているからです。
この考え方を持ち続けて働くことができれば、人に喜んでもらえることを実感できて、それを自分の天命(これをやるために生まれてきた)と思えるようになり、それを続けることが自分の使命だと思えるようになります。
では、具体的にどういう行動をすればいいか。三つ紹介します。1)没頭すること。(目の前の仕事を一生懸命すること)2)人との繋がりを持つこと。3)人に親切にすること。時間は有限ですが、この三つのことを意識して仕事をすれば、時間が無限に感じられ、幸せになることができます。

共鳴する魂

使命という話をしましたが、自分の一度しかない人生を何に使うかをよく考えてください。志のない人生は、損得が判断基準になってしまいます。ところが、この「志」というのは自生しません。つまり、何もしなければ自分の中に志は生まれてこないのです。
志を持つためには、志を持つ人に出会って共鳴する、あるいは自分の心を震わせてくれるような人に出会って共鳴する機会を持つしかありません。

人と出会う

皆さんは、自分自身をどれだけ知っているでしょうか。鏡には、左右が逆にはなっているものの、日常の自分しか映りません。たまに録音や録画された自分の姿や声に、ギョッとすることがあると思いますが、これは自分が普段気づかなかった自分の姿だからです。ジョハリの窓で考えるところの「自分の知らない、他人も知らない自分の姿」というものに出会ってみたいと思いませんか。
これに出会うには、多くの人(出来れば、これまでに会っていない人)と出会うことです。そうすることで、今までに気づかなかった自分が会話や体験という形で引き出されます。
自分の持つあらゆるものは、人が運んでくるものです。だから、成功した人に話を聞くと「自分のおかげ」とは言いません。「運が良かった、人のおかげだ」と言うのです。世の中には、自分一人では不可能なことが多くあります。仕事をするようになると、そういうことばかりです。そんな時は、周囲の人に「手伝って」と言えばいい。いろんな人の力を借りればいいのです。
また、助けてもらえる人になるためには、自分自身が人を助ける生き方をしなければなりません。こういう生き方をしていくうちに、新しい出会いが次の扉を開けるのです。人は、自分の命を誰かのために使うことで生きることができる生き物だと、僕は思います。

本と出会う

これから先、皆さんがどんな道を進んでいても、本を読むことで人生を大きく変えることができます。
今、大学生の40%が年間に一冊も本を読まないそうです。ところが、就職する先となる企業からは「どうなったらもっと良くなるかと常に考える」という探求心が求められます。そしてその企業の経営者は、企業をどうしたらもっと良い企業にできるかを探るために、本を読むのです。
先日、全国紙の新聞と、ある地域紙から、同じ本の出版について取材を受けたことがあります。全国紙の記者は、事前に本も読んだ上でいくつか周辺事項を調査して取材に来ているのが分かりました。だから質問も具体的で、とても的を射たものでした。一方地方紙の記者は、「これは、どういう本ですか?」という質問をしてこられて、ガッカリした記憶があります。
これから皆さんの前に、一流の人達が立つことになりますが、彼等は本を書かれている方がほとんどだと思います。ぜひ、事前に読んで知った上で講演に臨んでほしいと思います。

楽しむと決めてここに来る

行ったことのある人は分かると思いますが、海外旅行にはトラブルがつきものです。それでも、楽しもうと決めていればトラブルだって貴重な体験になります。旅行じゃなくても同じです。例えばこれまで学校の授業。皆さんは、先生が学ばせてくれる、楽しませてくれることが当然だと思ったことはありませんか?志・未来塾に参加した皆さんは、これからは何でも楽しむと決めて授業を受けてみてください。
皆さんのこれまでの人生よりも、卒業後の人生の方がはるかに長いですから、楽しむと決めて真剣に取り組めば、幸せになれます。人生には楽しい「こと」があるのではなく、楽しい「時」がある。これは、楽しむと決めることで作ることができるのです。志・未来塾も、ぜひ楽しむために来てください。
私は、来年の一月にまた皆さんとこうして会うことになります。一冊は僕の本も読んでおいてください。(笑)一歩でも二歩でも前進した、成熟した皆さんに出会えることを楽しみにしています。

編集後記

志・未来塾も第四期を迎え、開催する側からすると講師の喜多川先生が最初と最後という流れが定着した。しかし、多くの塾生にとっては初の対面だ。この出会いにどういう思いを持つかは人それぞれだろうが、大きな成長のきっかけになれば、開催する側としても嬉しい。

中島みゆきが、30年ほど前のアルバム「予感」に「縁」という曲を収録しており、こう書いている。
 縁ある人 万里の道を超えて引き合うもの
 縁なき人 顔を合わせ術もなくすれ違う

学生諸君、志・未来塾へようこそ。
君達は、志・未来塾に参加という選択をした時点で、喜多川先生という一流、これから登場予定の一流の各先生、そして他校の仲間との「縁」を引き寄せたのだ。これからの人生を幸せにするには、この縁を活かさない手はない!楽しむと決めて講演を聴き、周囲の仲間の役に立つことを考え、目の前の仕事に没頭してみようではないか。一年後、変化の兆しが自分の中に芽生えているかもしれない。さぁ、楽しんでいこう!

講演中の様子